2012年10月9日火曜日

役所

 独身という小説の中で、鴎外をモデルとしたとされる主人が、「それは有難う。明日役所から帰る時にでも廻って見ましょう。・・・」と語っている。フィクションの要素も多分にあるのだろうが、鴎外は自身の仕事を役所勤めであると認識していたのだろうと思う。

 森林太郎軍医部長の勤務は朝の9時から午後3時まで。医師として働いているわけでもないので急患もない。また教会の神父からフランス語を習う日には、一旦帰宅後服を着替え、歩いてきちっと遅刻せずにやって来たとのことだから、定刻に帰宅できていたはずである。

 役所勤めでも、木っ端役人はいろいろと仕事が廻ってくるだろう。悠々と帰宅できるところ、やはり地方赴任時の高級官僚という立場になる。

 鴎外が学生当時の東大医学部は、東京医学校の体制である甲乙二部制をとっていたようで、鴎外はその甲(本科生)に進んでいる。本科生は卒業後は主としてドイツへの留学を経験した後に、官途あるいは軍医として採用されることになっていたそうで、母親などの希望も強かったかもしれないが、もともと鴎外は官僚志向であったと考えられる。

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