2012年11月15日木曜日

充実した日々

 休みなき精進の生涯であったと語られるように、小倉での鴎外の日々も決して安逸に流れるなどというものではなかったと思われる。文筆活動という意味では雌伏のときであったかもしれないが、一人の人生とすれば、日々を確実に積み重ねていたと感じる。

 日々の公務。小倉のみでなく、福岡、熊本その他の師団、衛戍病院の視察。 演習の参加、統括。クラウゼヴィッツ「戦論」の翻訳および将校への講義。水質に関する調査。地元の求めに応じての講演。即興詩人の訳出。東京及び地元の新聞への寄稿。会議のための上京。フランス語の勉強。唯識論の勉強。名所、旧跡、地方史の研究。再婚。

 主なところを羅列するだけでも、随分することが多い。これに日常の些事も含めると、だらだらとした時間などほとんどないのではなかろうか。充実した日々を送っていたと思われる。ちなみに、普通の軍医部長ならば、鴎外が小倉にいた2年10ヶ月をかけても、鴎外が訳出した部分の戦論の翻訳すらなしえないだろうと思う。ただただ驚くばかりである。

0 件のコメント: